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2022.03.29画像認識AI
IT調査会社 IDC Japan ソフトウェア&セキュリティ/IT スペンディング グループディレクターである眞鍋 敬氏により、全4回を通して、 AI活用の現状と今後、AI の活用領域:産業分野とユースケース(使い方)、AI の実践的活用というトピックについて、提言していただきます。
連載第4回では、「AI の実践的活用(その2):流通、医療/介護」について、ご紹介いたします。
IDC Japan
ソフトウェア&セキュリティ/IT スペンディング
グループディレクター
眞鍋 敬氏
前回のコラムでは、AI の活用を産業分野、特に製造業と公共の観点で考察してみました。
画像認識 AI が製造/公共で大いに役立つことが発見できました。今回は、その他の業種で利用方法が無いか考察してみます。
流通業では、製品を製造現場から店舗など顧客の購買拠点に対して効率的に配置したり、販売をサポートすることが重要な業務になります。近年では、新型コロナ感染症(COVID-19)拡大の影響で、小売などの流通業は店舗への来客数の減少や制約によってさらなるコスト削減や在庫の最適化(最小化)、店舗への製品配備を行うための人員不足(例えば配送車のドライバー)による在庫コントロールの困難性の拡大などが課題となっています。一方で、COVID-19 の影響によって、消費者/ビジネスバイヤー共にデジタルプラットフォーム上での購買は進行しており、リアル店舗の売り上げ減少を補完する効果はあるものの、逆に競合が多くなることでさらなるコスト削減や、在庫からのリアルタイム出荷による顧客満足度向上が求められる二律背反の状況も見受けられます。
このような状況で、リアル店舗では顧客の導線や商品棚/在庫棚のリアルタイムに近い画像を AI で認識し、売れ行きの良い商品の在庫をリアルタイム補充したり、より多種の商品を購入いただけるように商品の棚配置を変更するような利用方法が出現しています。このようなユースケースは、前回のコラムで説明した製造業での画像認識ユースケースと比較して、現在では市場は大きくはありませんが、2020 年~2025 年の年間平均成長率(CAGR)は 37.4%と、流通業のユースケースとして最も成長率が高く、期待できるユースケースとIDC ではみています。これにデジタル決済を組み合わせることによって将来は店舗人員の最小化を図ることもできる可能性があります。デジタル店舗では、バックヤードの在庫棚の残数と補充のリアルタイム管理や在庫商品の棚配置変更などに応用できると考えられます。このユースケースでは生鮮食料品など商品の鮮度によって売れ行き/価値観が異なる商品を大量に販売する際に有効であると考えられます。これらのユースケースではビデオ映像を利用することも考えられますが、ストリーム映像では必要なストレージ容量が大きくなりシステムコストが高額になる傾向があります。この点ではコスト対効果に見合った方式の検討が必要になるでしょう。
医療における画像診断は過去から行われており、例えば X 線写真での診断は、健康診断や病理検査などで通常行われてきた医療行為でしょう。このような医療における画像では、AIによる画像認識と診断のリコメンデーションが行われてきており、医師の診断を補完するものとして活用されています。一方、COVID-19 の感染拡大によって、過去 2 年間は生活者の健康に対する意識が飛躍的に向上しました。より普段の生活に近い環境下で、自身の健康状態の把握や専門家による考察/アドバイスを求めるケースが増加しています。これは本格的な医療行為というより、日常の健康維持や異常の予兆発見など、病気の予防による生活体験の向上に役立つものになります。国/自治体の観点では、医療費の削減や医療/介護従事者の不足に対応するための施策として、生活者の日常の健康維持に対する行動が推奨されている背景があります。これらの社会環境への対応として、AI による顔や皮膚画像認識によって、顔色や表情、皮膚の状態の変化などを観測し、変化が現れた場合に専門家に対するアドバイスを促すような利用方法が考えられます。同様に介護現場でも本格的な医療行為には至らない、要介護者の状態観測や見守りなどの用途に、AI による画像認識が役立つでしょう。実際の効果としては医療提供者側の人材不足対策やコストの削減ばかりでなく、健康/介護保険の保険料低下など、実生活に還元される可能性があります。このユースケースは 2020 年~2025 年の CAGR を 27.5%と IDC では予測しており、期待の高い利用方法であると考えられます。
上記のように、産業に特化した画像認識 AI の活用アイデアはもっと数多く存在します。今後の AI はいかに活用して自動化や効率改善などの目標を達成するかに移行していくと考えられます。その際のポイントは、自社あるいは業種に特有のワークフローや業務特性にどのように適用可能かを考慮することにあります。このためには、業務ワークフローを棚卸しした上で、自動化や効率化できる部分を発見し(逆に見ると、人手をかけている部分や非効率になっている部分はどこかを探す)、そこに AI による画像認識が適用できるか、効果はどの程度見込めるかを目標値と共に検討することであると考えられます。
著者:眞鍋 敬
グループディレクターとして、ソフトウェア/IT セキュリティ/OT セキュリティ市場と IT 支出に関する調査を統括。また、専門分野としてコミュニケーションをベースとしたソーシャルビジネス市場やユニファイドコミュニケーション(UC)/コラボレーション市場などの通信とソフトウェアの融合分野、CRM/デジタルマーケティング/デジタルコンテンツ市場などのフロントエンドアプリケーション市場、およびビッグデータ、AI システム/RPA/顧客エクスペリエンス市場などのデジタルトランスフォーメーションにも跨った調査を実施している。
IDC 入社以前は、国内大手製造ベンダーにて、通信/ソフトウェア/ソリューション分野で機器設計、システムエンジニアリング、コンサルティング、商品企画、マーケティング、事業企画/運営を20 年以上経験。