SmartCloud コラム

IDC Japanコラム 【第3回】 AI の実践的活用(その1):製造、社会インフラ

2022.03.29画像認識AI

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IT調査会社 IDC Japan ソフトウェア&セキュリティ/IT スペンディング グループディレクターである眞鍋 敬氏により、全4回を通して、 AI活用の現状と今後、AI の活用領域:産業分野とユースケース(使い方)、AI の実践的活用というトピックについて、提言していただきます。

連載第3回では、「AI の実践的活用(その1):製造、社会インフラ」について、ご紹介いたします。

 

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IDC Japan

ソフトウェア&セキュリティ/IT スペンディング

グループディレクター

眞鍋 敬氏

 

前回のコラムでは、AI の活用の現状と今後の見通し、より産業毎に特有のワークフローを自動化したり高精度化するための AI 活用が今後進みそうである、ということについて考察しました。では実際にどのような産業で、どのような利用方法が期待できるかを見てみましょう。

Figure 1 は前回のコラムでご紹介した AI の代表的ユースケース(利用方法)のトップ 5 を示したものです。項目としては「品質管理」「自動予兆保全」といった、少し漠然とした記載になっていますが、実際の現場での使い方について考えてみましょう。

anufacturing-social-infrastructure-ai-figure-1.pngFigure 1 企業の AI システムの利用状況(ユースケース別、2021 年)

IDC Japan, March 2022

 

品質管理:製造業

製造業では、製造する製品の品質向上は顧客満足度の低下を防ぐだけでなく、歩留まりの改善などの点でコスト削減に役立つ、いわば企業存続の生命線ともいえる目標です。多くの製造企業では、設計ノウハウのトランスファーや不具合の情報をデータ化し分析することで品質向上に努めています。しかし、品質の「最後の砦」として製造ラインでの異物、汚れ、傷、ハンダ不良など製品の不具合発見や根本的な設計課題を熟練した技術者が目視検査を行う必要があります。ところが製造現場では熟練技術者が減少し、次第に品質向上の限界を迎えつつあり、生産量の低下が起こるという課題もあります。そこで、製造物の目視検査をカメラによって製品画像を撮影し、AI を活用した画像認識に代替させ、IT 化する手法が出現しています。正常品と不具合品の画像の違いなどを AI に学習させることによって、製品の目視検査を自動化および高精度化する試みです。これによって不具合を 30%以上削減したり生産量を 2 倍に拡大した事例もあるほど効果的であり、導入した 49.3%の企業が 30%以上の生産効率の向上効果を実感しているという IDC の調査結果があります。

  • 目的、目標:製造物の生産効率の向上
  • 課題:目視検査の人手不足、ノウハウ継承
  • 方法:画像認識 AI による不具合検出の自動化
  • 期待効果:不具合品の数十%減少、製造量の数十%増(製造物によって異なる)

 

自動予兆保全:公共

公共(電力、ガス、水道、自治体など)では、さまざまなインフラ設備の建設や保守を行っています。例えば、ビルや橋梁、河川、送電鉄塔、ガス/水道管などのインフラ設備があります。万一これらの設備が故障や使用停止などの事態が発生すると、ライフラインの停止や事故による市民生活に大きな影響が出ることや経済活動に対する影響が多大となります。

しかし、近年、これらのインフラ設備の老朽化が課題となっており、これに伴う保守のコスト増大が社会問題になりつつあります。公共系企業や官公庁/自治体ではインフラ設備の停止を回避するため、定常的な保守をセンサーデータの分析や人手による目視などで行っています。しかしここでも保守員の人手不足や保守コストの増大による課題が発生しています。特にビルや鉄塔などの高所作業は危険を伴うため特殊な技術が必要になり人材不足が深刻になりつつあります。そこで、ドローンや保守員による写真撮影や定点カメラによる画像を AI によって画像認識し、不具合の発生を予兆することで大きな事故や停止などの影響を事前に防止する取り組みが開始されています。これによって、正常状態の画像と比較することによって、例えばヒビや錆、曲がりなどの状態を確認して、修復が必要な場所をいち早く特定して保守作業を効率化することが可能となります。さらに画像精度を高めることによって、明確な異常が無い場合であっても、予兆を把握して事前確認することも可能になります。これについても、前述の IDC の調査では導入した 50.0%の組織が 30%以上の導入効果があったと回答しています。予兆保守とはやや異なりますが、3月16日に東北地方を中心に発生した地震や東日本大震災、河川の氾濫や火山の噴火など、災害によるインフラの被災状況の把握や修復の計画などに、大いに役立つユースケースと考えられます。

  • 目的、目標:設備の保守効率改善による事故や破損/停止の防止
  • 課題:目視検査の人手不足、ノウハウ継承
  • 方法:画像認識 AI による不具合、予兆の検出自動化
  • 期待効果:不具合検出の数十%増加、保守コストの数十%削減(設備によって異なる)

 

上記のように、産業に特化した画像認識 AI の事例が出現し始めています。導入した企業/組織では効果を実感していますが、導入に対する課題が無いとは言えないのが現状です。例えば導入する企業/組織側の IT ノウハウ不足、AI の学習のための画像データの不足などが挙げられます。

導入のためのポイントは、上記に示したとおり、目的、課題、期待効果を明確にすることが重要ですが、同時に適切な導入/運用サポートがベンダーから受けられるか、少ないデータで正常状態を AI に学習させられるか(正例判定とも言います)などが導入選択のポイントになるでしょう。

次回はさらに産業特化型のユースケースを考察してみます。

 

tmanabe_IDC_round.png 著者:眞鍋 敬

グループディレクターとして、ソフトウェア/IT セキュリティ/OT セキュリティ市場と IT 支出に関する調査を統括。また、専門分野としてコミュニケーションをベースとしたソーシャルビジネス市場やユニファイドコミュニケーション(UC)/コラボレーション市場などの通信とソフトウェアの融合分野、CRM/デジタルマーケティング/デジタルコンテンツ市場などのフロントエンドアプリケーション市場、およびビッグデータ、AI システム/RPA/顧客エクスペリエンス市場などのデジタルトランスフォーメーションにも跨った調査を実施している。
IDC 入社以前は、国内大手製造ベンダーにて、通信/ソフトウェア/ソリューション分野で機器設計、システムエンジニアリング、コンサルティング、商品企画、マーケティング、事業企画/運営を20 年以上経験。

 

 

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